正解から先に言えば、日本において現在の法律上、大麻は麻薬ではない。大麻は「大麻取締法」、麻薬は「麻薬及び向精神薬取締法」(いわゆる麻向法)の範囲だからだ。だから「ヘロインや覚醒剤と比べて大麻は毒性が低いんだよ」とか「大麻はタバコより害がないんだよ」いう話は海外の事情とデータだし、「ダメ、ゼッタイ」の団体や人たちに任せれば良い。
どうしても比べたいなら糖分や水など取りすぎると健康被害をもたらしたり、あるいは死に至るけれども、実は身近といったものと比べた方が良いと思うがどうだろう。あるいは桜やアジザイといった植物や一般流通するハーブ類と比べたりしたら良いんじゃないかなぁ。トビの良し悪しや医療の話とは少し違った視点だし、まぁ、何かを悪者にしゃなきゃ成り立たない議論はわかりやすいがあまりオススメはしないが。それはともかく、現在進行中の法改正は「大麻は麻薬だ」と認める動きだということは知っておいた方がよいことだろう。
さらにそれはともかく、CBDをはじめとするカンナビノイド類が流通しているのは、大麻取締法の第一条、〈「大麻」とは、大麻草(カンナビス・サティバ・エル)及びその製品をいう。ただし、大麻草の成熟した茎及びその製品(樹脂を除く。)並びに大麻草の種子及びその製品を除く。〉という内容に基づいて、「成熟した茎や種子からとったカンナビノイドはOK」という話になる。「(樹脂を除く。)」については、一応、樹脂ではないという扱いなのだろう。いわゆる部位規制だ。まぁ、本当に成熟した種子や種由来のカンナビノイドなのか、あるいは樹脂ではないのか、といったグレーな部分を解消するのが部位規制から成分規制への変更を旨とする法改正に向けた動きでもある。THC規制への動きだ。
現状でもTHCは麻向法によって規制されている。禁止となっている、あるいはこれから禁止なるカンナビノイド類もそうだ。その弊害はまたの機会として、現状の大麻取締法の運用も実態はTHCの規制だ。成分規制になれば大麻取締法の運用ではなく麻向法の運用がメインとなることは間違いない。現在の大麻取締法では所持は違法だが使用罪は明記されていない。法改正に向けて進められているのは所持とともに使用も規制されることになることで明確な罰則化だ。大麻取締法と麻向法のすり合わせと運用をどのようにしていく法改正となるのだろうか。
「その大麻は私のものではありません」という言い訳は通らなくなる。「その大麻は大麻ではありません」という言い訳ができるかどうかは法案及び法改正後の運用次第だが。成分規制ならすでに麻向法があるんだから「厚労省管轄の大麻取締法はいらない」っていう議論にならないところも今回の法改正の動きの奥深さだ。
さて、冒頭で「大麻は麻薬ではない」と断言したが、「薬事五法」という括りでは、以下のような法律があり、「大麻取締法」「麻向法」「特例法」の3つが大麻関連の法律だ。まぁ、麻薬扱い。その辺りの齟齬も法改正が行われればなくなるのかな。
・麻薬及び向精神薬取締法(麻向法)
・覚せい剤取締法
・大麻取締法
・あへん法
・国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律(特例法)
(厚生労働省 地方厚生局 麻薬取締部 HPより https://www.ncd.mhlw.go.jp/lows/index.html)
単純に言えば大麻が医療で使えないのは大麻が麻薬ではなく大麻取締法で使っちゃいけないことになっているから。大麻取締法の第四条の二つ目と三つ目に使っちゃダメって書いてあるから。もっと簡単に言えばこの項目さえ外せばいいんだけど、そういう法改正を目指していないところが奥深い法改正の流れだ。関連法との関連で大麻を医療麻薬として使えるように、より麻薬色を強める法改正を目指している。
(大麻取締法 第四条より)
「大麻は麻薬じゃない」から「大麻は麻薬だ」への変更が法改正の大きなポイントのひとつであって合法化への流れっていうより規制強化なのは明確。そのような動きの中でカンナビノイドをどう捉え、どう扱っていくかは販売者も消費者も考えなきゃならないように思う。医薬品であることだけが正解ではないし、一部の人たちだけの特権になってもいけない。必要な人にちゃんと届き続けるようにもっとさまざまな意見が反映された法改正が望ましいよね。
松浦 良樹〈Matsumura Yoshiki〉プロフィール
環境問題や自然エネルギー、伝統文化などをメインテリトリーとするライターとして様々な媒体に執筆。
NPO法人日本麻協会理事などを務め、2016年7月に理事長 岡沼 隆とともに国立京都国際会館で開催された「第1回 世界麻環境フォーラム」(別名「京都ヘンプフォーラム」)と呼ばれる「IHEF(International Hemp Environmental Forum)」の初イベントを開催した。このイベントには、世界中から麻の専門家や産業家の他、安倍昭恵総理夫人(当時)、京都市長、京都最古の神社である上賀茂神社宮司をはじめ、大麻に理解のあるメンバーが広く参加した。
また、蚊帳研究家として蚊帳の歴史や文化の研究に努めるとともに、ヘンプ100%の藍染の蚊帳やヘンプストロー、ヘンプフィルター、ヘンプなどの衣食に関わる大麻アイテムの開発に携わり、普及活動を続けている。
2019年ネパールで開催された「ASIA HEMP SUMMIT」において「大麻と蚊帳の博物館の創設」「日本の祈りに関連した大麻」に向けた企画で起業家賞を受賞。大麻の専門店「麻草屋」代表でもある。また、タイ王国バンコクで開催された「アジア国際ヘンプエキスポ 2022 」では二大パビリオンのひとつ「golden hemp pavilion」のオーガナイザーを務めた。