法と命のはざま

 人はいつか死ぬ。そして、日本においても2022年(令和4年)の死亡数は 156 8961人。1日に約4300人、1時間換算だと約179人、1秒あたり約3人が亡くなっている計算だ。その約4分の1に当たる24.6%が悪性新生物(腫瘍)、いわゆる癌によるものだ。将来的には二人に1人が癌で亡くなるのではないかとも言われている。

 人はいつか死ぬ。それは明日かもしれないし、100年後かもしれない。病気かもしれないし事故かもしれない。天災がやってくることもあるだろう。戦争の戦禍に巻き込まれるかもしれない。自ら命を絶つ人もいる。まぁ、コロナだけでも2020年と2021年に世界で1500万人近くが死亡した可能性があることも指摘されている。

 そうは言っても知り合いが亡くなるのはやはり寂しいものだ。そして悔しくもある。身内やお世話になった人ならなおさらだ。そして亡くなった人が大麻を良く知る人であるならばなおさらだ。

American cancer societyhttps://www.cancer.org/)によると、

 ・カンナビノイドが細胞死を引き起こし、細胞増殖を阻止、
 また腫瘍の増殖に必要な血管の 発達を遮断することにより腫瘍増殖を
 阻害する可能性

・カンナビノイドは正常細胞を保護しながら癌細胞を殺す可能性

・カンナビノイドが結腸の炎症から保護し、結腸癌のリスク減可能性

・肝臓がんにおける研究でTHCが癌細胞を損傷、もしくは死滅させ、
 抗腫瘍効果をもつことが示された

・化学両方とCBDの組み合わせによりすい臓がんの生存率が大幅に向上

 などなど、記載がある。僕自身は大麻で癌が治る!とは思っていない。大麻だって万能ではない。根本治療というより数多くある対症療法のひとつだと考えているからだ。大麻で治ったという人でも再発してしまうことを何度も聞いているからだ。

 大麻で腫瘍が小さくなったりもするし、最後まで意識がしっかりとしていたり、ご飯も食べられて、終末医療という意味では良いのではないかと考えている。「大麻を吸って楽しく死のう」が大麻の役割だと提唱する人もいる。大麻は多くの癌治療薬がある中の選択肢のひとつで良い。改善緩和薬のひとつとして、認められていけば良い。大麻だけに頼るのでは無く、その他の薬との併用、バランスが大事だ。そこは大麻信者、大麻信奉者に陥ってはならない。

 大麻で癌治療ということではフランス料理 元シェフ 山本正光氏の「医療大麻裁判(山本裁判)」や彼を追った『ドキュメンタリー映画「麻てらす番外編~やまさん余命半年の挑戦~」』などもあるが、表に出ないだけで「リックシンプソンオイル」などのレシピをもとに独自に治療をこころみる人もいる。日本においては〈医療大麻〉という最近やっと認められてきたキーワードはもっと声を上げても良い問題だ。

 法改正によって一部変わる予定とはいえ、現在の日本において、もちろん大麻による医療行為は違法だ。大麻取締法の第四条の23があるからだ。現在の大麻取締法では、「大麻から製造された医薬品を施用し、又は施用のため交付すること。」「大麻から製造された医薬品の施用を受けること。」と医者も患者も縛られている。まぁ、成熟した茎由来のCBDは樹脂とは見做されず、法解釈によってOKなようだし、麻向法に抵触しないさまざまなカンナビノイドやテルペンは問題なく流通しているが、医療グレードとしてはこれまで以上のトレーサビリティ、品質管理、残留物、そして治験、エビデンスなどなどの問題もあり、たった一つの医薬品の承認などといった矮小化された問題だけではないこれからの話だ。

 

 とはいっても「大麻で癌が治る」という話は、藁にでも縋りたい癌治療を試みている人からすれば確かに飛びつきたくなる話には違いない。そして悩むのだ。「ダメ、絶対」な大麻を使って、法に触れてでも治療や命を優先されるのか、それとも法を遵守するのかと。それは医者だけでなく、大麻についてのある程度の知識を有する人にとってもジレンマであり、法と命のはざまで揺れ動くのだ。

 僕自身は人体実験というか人柱というか実際に病気になったら使うと思う。そして身内には強引にでも使うだろう。知り合いならば本人が了承しても躊躇する。その人が良くても、身内の意見や考えもあるからだ。押し付けることはできない。そこは本人は周りを説得するしかない。頼まれれば説得ではなく説明はするが、僕には命の責任は持てない。最終的には自己責任。

 そのような中できっと使う人もいるだろうし、使わない人もいる。法と命のバランスだ。ある民間医療を信じ、その民間医療と最後まで寄り添って亡くなった友もいる。文章を書き続け、最後の一文に「もうダメだ」とノートに乱暴な走り書きを残して亡くなった友がいる。全身転移で闘病、僕自身がタイに連れて行きたいと願った人もいる。彼女、彼たちは大麻のことも知っていたが法を遵守した。国が認めない大麻での治療を信じ切ることは出来なかったのだと思う。大麻だけに限らないが、国が認めるか認めないかは大きく人の人生に左右する。大麻には絶対手を出してはいけないといいながら薬としては有用性が高い、というダブルスタンダードな対応は整合性にかける。容量と用法、バランス。

 経済の視点を無視するなら、薬利用は強者の、全草利用は弱者のもので良いんじゃないかなぁ、なんて考えたりもする。自分の分は自分で育てる自由があればだけどね。

たかが大麻、されど大麻。

 

松浦 良樹〈Matsumura Yoshiki〉プロフィール

 環境問題や自然エネルギー、伝統文化などをメインテリトリーとするライターとして様々な媒体に執筆。

 NPO法人日本麻協会理事などを務め、2016年7月に理事・長岡 沼隆とともに国立京都国際会館で開催された「第1回 世界麻環境フォーラム」(別名「京都ヘンプフォーラム」)と呼ばれる「IHEF(International Hemp Environmental Forum)」の初イベントを開催した。このイベントには、世界中から麻の専門家や産業家の他、安倍昭恵総理夫人(当時)、京都市長、京都最古の神社である上賀茂神社宮司をはじめ、大麻に理解のあるメンバーが広く参加した。

 また、蚊帳研究家として蚊帳の歴史や文化の研究に努めるとともに、ヘンプ100%の藍染の蚊帳やヘンプストロー、ヘンプフィルター、ヘンプなどの衣食に関わる大麻アイテムの開発に携わり、普及活動を続けている。