2023年5月 タイの大麻事情は?!

2023年5月 タイの大麻事情は?!

5月のタイは暑い、と聞いていたんだけど、意外と快適だ。気温も40度近くになり、外を歩いているとあっという間に汗だくなるし、ビールがあっという間に汗に変わっていく。普段はあまり飲まないタイ特有の甘ったるい飲み物も身体が欲するようになる。季節的にはタイはローシーズン。天気予報を見ても毎日雨のはずで、合羽をはじめ雨具一式を日本から持ち込んだのだけれどもまだ一度も着る機会がなく、ほぼほぼの晴天と僅かな雨の中で過ごしている。

今回タイに来た目的はいくつかあるのだけれども、まずはミャンマー国境に近い街でモン族の村を訪ね、大麻の栽培と糸作りや布作りを実際に見せてもらうことだった。そこには丘一面に広がる大麻畑があり、日本の精麻、いわゆる黄金麻(ゴールデンヘンプ)の製法とはまた違ったモン族ならではの製法であり文化があった。

村を離れ、バンコクに戻るとそこにはまた違った大麻の一面を見ることができる。村で見た繊維用の大麻ではなく、嗜好用・医療用の大麻だ。街を歩くといたるところでディスペンサリーを目にする。こんな裏通りにまであるのかと思うくらいにディスペンサリーがあり、繁華街ならセブンイレブン、マッサージ、タツゥー、そしてディスペンサリーがずっと並んでいるような印象だ。特に多くの日本人が通い、かつてのバックパッカーの聖地・カオサンに至っては正規店、非正規店、露店、販売カーなどが並び、乱立するカオスな状況になっていて、大音量のクラブからの音とともに大麻特有の香りもあちこちから漏れ漂ってくる。国外からの大麻の輸入は禁止のはずだがカルフォルニアやアメリカ産を売りにする店もあり、またメディカルグレードを売りにする店も多い。

カオサン通りではないがこちらもまた日本人が多く集まるスクンピット通りに近い22番通り(ソイ22)も多くのディスペンサリーが並び、その中には日本人が経営する店もあった。乱立するディスペンサリーの中で「ジャパン・クオリティー」は評価が高くひっきりなしの来客があり、すでに供給多寡でレッドオーシャンにも見える中で健闘している。ここでいう「ジャパン・クオリティー」とは日本で作られた製品を販売しているということではない。そもそも現在のタイではTHCの問題だけではなく、日本のCBDは持ち込めない。「ジャパン・クオリティー」とは店員さんによれば「一人ひとりに寄り添うい、一人ひとりに気遣うこと」のようだ。日本では普通のことがタイでは通用しないことも多い。だからといってタイに順応するだけでなく、来てくれたお客さんへの接客に日本人らしさを発揮していることがリピート顧客の獲得に役立っているようだ。嗜好用をメインに扱いつつも、痛みを抱え、すがる思いで大麻を求めるお客さんも多い。夫婦らしい男性が、手足の不自由な女性を抱えるように入店し、店員に痛みと痺れを訴えて、舌下吸収用のオイルタイプを購入していった。

とりあえずバンコクのいくつかの繁華街、そしてチェンマイのディスペンサリーを訪れたが、全体として価格は数ヶ月前の半分というところだ。そしてぱっと見の品質は少し落ちたように感じた。より多く見るようになったのはローカルといわれるタイ産だ。こちらはさらに安い値段で売られている。場所によってはもらうことも多く、一度も買うことがなく、切らすこともないという旅行者の話も聞いた。また、ブリラムにある医療用の大麻栽培の工場や医療機関も見学したがまだまだ試行錯誤の状態で、今後の医療ツーリズムや海外輸出などに向けて体制を作り込んでいる途中という印象だ。タイでは5月中旬に国政選挙があり、現在は大麻を推進する与党より大麻に反対する野党の方が優勢であり、選挙次第ではどのように大麻政策が変更されるか分からない面があり、今のうちに稼ぐだけ稼ぐ派と様子を見ながらの慎重派、そしてこれから参入しようとする新興勢力が凌ぎを削っている。

現在流通しているバッズによる嗜好だけで考えるならすでに生産過剰であって需要と供給のバランスは悪い。生産者、販売者からすればすでにレッドオーシャンな状況であり、それは今後も続くだろう。しかし品質の向上や様々な加工による需要の喚起はまだまだこれからだ。消費者からすれば様々な大麻が安く手に入るタイミングだとも言える。レッドオーシャンなりにタイの大麻事情はまだまだ熱いようだ。

 

 

 

松浦 良樹〈Matsumura Yoshiki〉プロフィール

環境問題や自然エネルギー、伝統文化などをメインテリトリーとするライターとして様々な媒体に執筆。

NPO法人日本麻協会理事などを務め、2016年7月に理事・長岡 沼隆とともに国立京都国際会館で開催された「第1回 世界麻環境フォーラム」(別名「京都ヘンプフォーラム」)と呼ばれる「IHEF(International Hemp Environmental Forum)」の初イベントを開催した。このイベントには、世界中から麻の専門家や産業家の他、安倍昭恵総理夫人(当時)、京都市長、京都最古の神社である上賀茂神社宮司をはじめ、大麻に理解のあるメンバーが広く参加した。

また、蚊帳研究家として蚊帳の歴史や文化の研究に努めるとともに、ヘンプ100%の藍染の蚊帳やヘンプストロー、ヘンプフィルター、ヘンプなどの衣食に関わる大麻アイテムの開発に携わり、普及活動を続けている。2019年ネパールで開催された「ASIA HEMP SUMMIT」において「大麻と蚊帳の博物館の創設」「日本の祈りに関連した大麻」に向けた企画で起業家賞を受賞。大麻の専門店「麻草屋」代表でもある。また、タイ王国バンコクで開催された「アジア国際ヘンプエキスポ 2022 」では二大パビリオンのひとつ「golden  hemp  pavilion」の責任者を務めた。