大麻は誰のものか

プロフェッショナル、いわゆるプロと呼ばれ、本人も自負している職種や職業に従事する人は多い。特に先生と呼ばれる人たちは最たるものだろう。例えば、医者は医療のプロだし、弁護士は法に熟知し、大学教授などは知の専門家だ。先生と呼ばれなくても落語家など家のつく職業、師匠などと呼ばれる人たちもその道のプロでありその肩書きはそれだけで彼や彼女の発言に何かしらの説得力を持たせている。ただ、それはその道のプロ、一定の分野についてのことであり、専門外の発言には注意が必要で、一定の見識はあるのだろうが首を傾げたくなることもあるのだけれどもなぜか権威づけされてしまうことも多い。まぁ、故意であることはそんなにないだろうし、ちょっとした勘違いや思い込みによる発言が受け取る側によってさらに強化され流布されたりもするから厄介なのだ。人は権威に弱い。

 まぁ、それはともかく。プロでも例えば、禁煙のプロのように何度も禁煙に挑戦して成功しているとか、何度もダイエットに成功し、そのノウハウを出すダイエットのプロとかは形容し難いが、それでは何が本当のプロなのかを考えるとなかなか難しく、言ったもの勝ち的な部分もなきにしもあらずだ。だがそれすらも一定の説得力を持ち一定の権威を纏いながら認知されていくのは見方を変えれば面白いところでもある。

 さて、とうとう今秋の臨時国会に大麻取締法の改正案が提出されるらしい。大麻の専門家たちがしっかりと議論を重ねて目先のことだけでなく100年後まで見据えたものであってくれれば良いが、僕の眼には「ダメ、絶対」の専門家やスペシャリスト、あるいは専門外の人たちによって議論というより段取りを経た結論ありきの法改正に見えて仕方がない。そしてそんな彼らや大麻を薬物として取り締まる側の厚労省などからレクチャーを受けた偏ったにわか知識の政治家が法案を成立させていく。

 法案提出の数日前、日本の厚労省とは違ってアメリカの厚生省は大麻関連の連邦規制レベルを引き下げるよう麻薬取締局(DEA)に提言したという報道が流れた。DEAが規制緩和に舵を切れば、連邦レベルでの合法化に大きく進んでいくことになる。そしてアメリカが変わればWHOも変わっていくことになるだろう。世界の基準が大きく変わることになる。そうなった時国際法に準拠する法治国家日本はどのように対応していくのだろうか。法改正による使用罪の創設がクローズアップされ、海外からの旅行者による来日以前の使用とどう区別するのかなども議論すべき問題のひとつだが、それも含めた今後100年と言わず数年、10年先の国際的なすり合わせや整合性にまで議論は尽くされているのだろうか。

 そしてまた、合法大麻と呼ばれるカンナビノイド類、厚労省がTHCアナログと呼ぶカンナビノイド類も規制に向けて動き出した。いたちごっこが続くのか包括規制となるのか、一般流通商品などに微量に含まれることはないのか、などなどこれまた議論すべきことは多い。そもそも誰が大麻の専門家なのだろう。偏りなく幅広い知見のもとで議論された上での法改正なのだろうか。法改正に向けた動きの舞台は法的根拠としての段取りを経て国会へと移る。法案成立が絶対ではない。しっかりと議論してより良き法改正、法案になることを望む。法改正によって人生が変わる人たちもいる。たかが大麻、されど大麻なのだ。

 

松浦 良樹〈Matsumura Yoshiki〉プロフィール

 環境問題や自然エネルギー、伝統文化などをメインテリトリーとするライターとして様々な媒体に執筆。

 NPO法人日本麻協会理事などを務め、2016年7月に理事・長岡 沼隆とともに国立京都国際会館で開催された「第1回 世界麻環境フォーラム」(別名「京都ヘンプフォーラム」)と呼ばれる「IHEF(International Hemp Environmental Forum)」の初イベントを開催した。このイベントには、世界中から麻の専門家や産業家の他、安倍昭恵総理夫人(当時)、京都市長、京都最古の神社である上賀茂神社宮司をはじめ、大麻に理解のあるメンバーが広く参加した。

 また、蚊帳研究家として蚊帳の歴史や文化の研究に努めるとともに、ヘンプ100%の藍染の蚊帳やヘンプストロー、ヘンプフィルター、ヘンプなどの衣食に関わる大麻アイテムの開発に携わり、普及活動を続けている。

 2019年ネパールで開催された「ASIA HEMP SUMMIT」において「大麻と蚊帳の博物館の創設」「日本の祈りに関連した大麻」に向けた企画で起業家賞を受賞。大麻の専門店「麻草屋」代表でもある。

 また、タイ王国バンコクで開催された「アジア国際ヘンプエキスポ 2022 」では二大パビリオンのひとつ「golden  hemp  pavilion」の責任者を務めた。

 2023年、青淵渋沢栄一翁顕彰会〈士魂商才〉賞を受賞。